ペットと人のハッピーライフを 出会いからエンディングまで
獣医師・ 動物医療 グリーフ ケア アドバイサー
阿部美奈子先生の合同会社Always

  

 

色々な看取りの形(1)

愛するペットとの別れを体験たご家族からいただいたメッセージをご紹介します。


愛猫の看取り~安楽死の決断

Kさん サンくん 猫mix 17歳 

最初にKさんにお会いしたのは3年くらい前のこと。
診察を待つKさんが大事そうにサンくんを覗き込みおっしゃいました。

「先生、この子は特別なの。猫でしょって言われるかもしれないけどだめなの。この子に万が一のことがあったら私はペットロスになると思う。その時は先生、本当によろしく頼みます。」

その後3年が経ちサンくんは腎臓や心臓を患いながらも17歳をむかえました。
昨年秋ごろから体調が悪化。苦しい表情が見られるようになり、安楽死の選択肢も提示されました。
そんな苦しい状況でしたがサンくんは、夜はKさんの枕もとによってきて頭の方で寝るのが好き。
バイクの音がすると2階から玄関にかけつけKさんの帰りを迎えてくれたそうです。
治療によって状態が安定することもあり、食欲も維持できていたため、春まではKさんとご主人との最期の時間の多くを大好きな自宅で過ごすことができました。

しかしながら4月に入り呼吸不全が進行し、なにも食べることができなくなりました。
入退院を何度か繰り返して迎えた朝。
来院後、ICUの中のサンくんが肩で息をしながらKさんの声に振り返り・・・
「にゃ…」ご主人の声にしっぽで反応するのが精いっぱい。

サンくんとKさんの気持ちが一致しました。いよいよお別れのときだと。

半年間ずっと決断できなかった安楽死。
でも今日はこれが最愛のサンくんに対してできる最高に愛情深い方法なのだと納得できたのです。
立ち会いを迷っていらっしゃったKさん。
でも最期までサンくんを安心させることができるのはKさんなのだという気づきが勇気となりました。
サンくんはいつもと同じように大好きなお母さんの腕枕でお父さんに頭を撫ぜてもらいながら、
静かにそして本当に安らかに深い眠りにつきました。

その穏やかなお顔を見てKさんご夫妻は深い悲しみの中でも安堵の表情をされていました。
「サン、ずっとお母さんのそばにいてくれて本当にありがとう。」


愛犬の看取り~安楽死の決断

Yさん はなこちゃん ビーグル犬(♀) 12歳 

Yさんのお父様が亡くなられた後、お母様に番犬としてプレゼントしたのが12年前のこと。
そのお母様も6年前に他界し同居していたYさんが世話をしてきました。

はなこちゃんを見るたびにお母様のうれしそうな笑顔を思い出していたそうです。
はなこちゃんに突然発作が起こり昨年8月「脳障害の疑い」との診断を受けました。
幸いなことにしばらくは落ち着きを取り戻し発作も時折あるものの元気、食欲もあり散歩もできる状態が続きました。はなこちゃんの居場所はお庭です。

今年になりYさんの外出中に発作が起きているのかも・・と思わせるようなはなこちゃんの体の汚れや吐物が見られるようになりました。
ある日帰宅すると日向で横倒しになっていたはなこちゃん。
立てない。以前は食欲旺盛だったはなこちゃんも今は自分で食べようとしない。口を噛みしめる。
無理やり口をあけて缶詰を詰め込む日々。

Yさんの心の中で強まる思い。
「こんな毎日ではなこは幸せなんだろうか。」

大好きだった散歩もできない。自力で食べることもできない。排便で汚れる。
目がほとんど見えていない。昼間は1人ぼっち。
はなこちゃんが自分のハウスで苦しむことなく安らかに逝ってほしいと願いながら・・・数週間が過ぎていきました。

横になったままじっとYさんの顔を見るはなこちゃん。
「はなこにとってこの数週間はストレスの大きい時間だったのかな。」
「この可愛いはなこのまま天国に送りたい。今までがんばってくれたはなこをきっとおばあちゃんが笑顔で迎えてくれるだろう。」

Yさんはこの時、長い間頭の片隅にはあったけれど迷っていた安楽死を決断しました。
きっとこの2人きりの穏やかな時間を通じてYさんとはなこちゃんはメッセージをキャッチボールができたのではないかな。
そしてYさんとはなこちゃんの気持ちが一致した瞬間なのです。
「お父さん、そろそろおばあちゃんのところに行くね。今までありがとう。楽しかったよ。」


愛猫のターミナル期~看取り

Mさん ニャンニャン 猫mix(♀) 19歳 

ニャンニャンは病院が大っ嫌い。
ワクチン接種もパニックになってしまい呼吸困難。
完全な室内飼いということで無理のない程度にワクチン接種をしながら大病もせず17年。

そのころから時々咳のような症状が出るため診察を受けたところ気管に問題が見つかりました。
内服治療を開始ししばらく経過は良好でしたが、19歳を迎えると食欲がない時には投薬を嫌い大きな抵抗に合い、ケガすることも。

でも必死でした。「薬を飲ませなければ苦しんでしまうのだ・・」自分に言い聞かせました。

投薬をがんばればがんばるほどニャンニャンの抵抗は大きくなり、ついにはMさんの顔を見ると逃げるようになってしまいました。毎日格闘するうちに心が痛んできたMさん。まるでニャンニャンを苦しめているような、自分が嫌われたような、そんな悲しい気持ちになりました。

「どうしてよいかわからない・・・」

多くの飼い主様がこのような苦悩を1人で抱えます。
医療が充実してきた現代では延命の方法が存在する喜びの一方で、
医療とペットの生活の質のバランスを調整することが難しい苦悩があります。

大切なことは「出会いから今までの年月共に暮らし幸せな関係だった。」ことを振り返り、
この子が最期まで安全に暮らせる、良い時間を持ち続けるためにはどうしたら良いのだろうか、
この子はなにを望んでいるのだろうか、「ペット目線」に自分の身をおくことなのです。

我が子の気持ちがわかるのも、正しくメッセージを受け取ることができるのも飼い主様本人なのです。そして嫌がることをできる限り減らすことも重要ではないでしょうか。

Mさんは深く納得され無理な投薬は止めました。最近ニャンニャンに見せてきた自分自身の姿が、気がつかない間に険しく変化していたことを知りました。ニャンニャンは今まで心地よく暮らしてきたHomeの空気がピリピリしていることで戸惑い危機感を感じていたかもしれません。
できるだけ優しく穏やかな声で話しかけ毎日笑顔を見せることをがんばってくれました。
ニャンニャンはMさんに再び甘えるようになりごはんも催促するようになったのです。

そして看取るその日まで幸せな関係は続きました。
「先生!ニャンニャンが昔のように私のところに戻ってきた!」
Mさんのうれしそうな笑顔が忘れられません。